AOTSジャーナル21号
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椿専門家(座学指導)溶接風景 溶接技術の伝承については、概ね指導したかった内容と習得度を満たしたと考えます。専門家が繰り返し指導・実演した事と、その後に現地従業員に責任を持たせて、何度も実践させた事が大きな要因だと考えます。専門家が感じたのは、インド法人の従業員一人一人の仕事に対するモチベーションは高く、新しいことを吸収したい、成長したいという気持ちが伝わってきたそうです。 またタンクの組み立てに関しては、指導に成功した大きな要因は従業員の前向きな姿勢と、作業を一緒に行ったことに帰結すると考えます。タンクの組み立ては、単に溶接ができるようになっただけでは完結しません。複数人で組み立てを行うため、それぞれの作業者が同じ方向を向き、チームワークを発揮する必要があります。基本的にインド人は、自分の仕事と他人の仕事を分けて考えているため、強いリーダーシップを持った人材がチームをコントロールしなければなりません。その点を踏まえて、先を見通した組み立ての手順を、口頭で説明し、共に作業する中で伝えることができたと考えます。報告書には、人材育成について「インド特有の問題があった」と書かれていますが、どのような指導をすることで解決したのでしょうか?専門家が派遣された主な理由は「人材育成」という概念がインド法人に根付いていなかったためです。しかし、これは当該企業に限定した話ではなく、インドの経済状況や社会構造が大きく関係していることが分かりました。生産の肝となる従業員が技術や知識を抱え込んでしまい、後輩の育成をしようという文化がありませんでした。自分の仕事を取られたくない、下の立場の人間に、自分の仕事をやらせたくないという、インド特有の文化的背景が障壁となっていたのです。6ヵ月という限られた期間の中で、専門家からは有形・無形の資産を残してもらえたと感じています。タンクを製作する上で必要な技術は、専門家が長きに渡り培ってきた経験と知識を思う存分、インド人の従業員に伝承できました。それに加えて、日本企業が求めていることや日本人と働くこと等、ソフトの面で大切な部分も指導いただきました。インドは日本とは対照的に若い人材が■れ返っていますが、その一方で「質」に対するこだわりはほとんど無く、自国の産業として製造業が上手く根付いていないことも事実です。日本の技術力をこれら若いインド人に上手く伝承することができれば、インドはもう一段ステップアップできると考えています。 プレスマシーンのオペレーションでは、スーパーバイザーから現在の仕事内容と機械の動かし方を共有させるのに苦労をしました。しかし、何故その情報を共有する必要があるのか、大切なことは何なのかを丁寧に説明する中で、作業者に仕事を分担させることができるようになりました。 またベテラン従業員の中には、「これは、私の仕事じゃない」や「自分さえ良ければ」という考えを持つ者が散見されましたが、専門家より繰り返し「自分だけ仕事ができても、会社から真に評価はされない。後輩の育成をすることで、更に評価される。」と指導を行いました。彼らに対して、「日系企業で働く意味」を粘り強く指導・助言をした事で、少なからず理解をしてくれたと思っています。事業利用のご感想をお聞かせください。 今回の派遣で指導目標のほぼ9割が達成できました。一番の理由は、数名の核となる人材を育成できたことにあると考えます。 またAOTSによる支援・フォローアップが大変厚く、安心して専門家を送り出せた事が印象的でした。弊社では、海外での就労・生活を経験している社員が少ない為、専門家も、送り出す側も多くの不安を抱えていましたが、きめ細かい対応で払拭していただけたのが有難かったです。 そして、専門家を送り出すことで、日本では考えられないインド特有の文化や事件を受け入れつつ、指導を進めることの難しさを体験として学ぶことができました。日本国内においても、外国人との共存共栄を避けて通れない時代において、今回の経験が派遣元企業にも良い影響を与えてくれると確信しています。AOTS JOURNAL3<インド指導先企業からの声>

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