AOTSジャーナル12号(2018年春)和文
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5No. 12 SPRING 2018 国際シンポジウム「働き方改革に向けて フランスの労働法改正と日・仏労使関係の相違点」AOTSでは、厚生労働省から委託を受け、海外の使用者団体や企業の人事担当者を対象に日本の労使関係や人的資源管理に関する研修事業を実施しています。その事業の一環として、海外の労働事情を日本の皆様にお伝えすべく、2017年10月31日、ベルサール神田(東京都千代田区)において、標記のシンポジウムを実施しました。フランスでは2016年および2017年に労働法が大幅に改正され、世界的に注目を浴びています。今回はフランス労働法の第一人者であるパリ第1大学ソルボンヌ校のジャン-エマニュエル レイ教授を日本にお招きし、労働法の改正の背景と趣旨、そして今後の労働事情の展望についてお話しいただきました。当日は定員を超える方にご参加いただき、盛況のうちに終了しました。 基調講演1982年に始まった労働法改革が今年ついに終着点をむかえた。かつては法が最低の労働条件を定め、産業別協約*により労働者有利になる条件を追加することが出来るだけであったが、1982年のオールー法以降は従来存在した法律・産業別協約に加え、企業別協定(協約)によっても労働条件を設定することが可能になり、同一の産業内においても企業毎に異なる労働条件を設定することが可能になった。さらに2004年の法律改正により、一部の労働条件においては企業別協約によって産業別協約の適用除外が行えることになった。実際にはこの制度はあまり活用されなかったものの、労働条件を企業別協約によって決めることの道筋が示された。2017年の法改正によって、ついに企業別協約が産業別協約に優先することが原則となった。企業は競争力維持のため、労働者との協約によって賃金、配置転換、労働時間について、いままでより柔軟に決定することが可能となり、また解雇に要するコストが低減された。労働者側からの反対はあるものの、この改正によりEUから対応が求められていた失業率・若年者雇用といった問題について解決が進むことが期待されている。またこの労働法改革は、新時代の技術革新の登場とそれに伴う働き方の変化に対応することも念頭においている。インターネット技術により、知的労働に従事する者は労働法が想定するような「職場において決められた時間働く」といった働き方にとらわれず、様々な時間に様々な方法で仕事に従事することが可能になった。企業が労働時間と休憩時間を管理することはもはや不可能であり、「みなし労働時間制」の導入は労働法の限界を露呈するものであった。特に知的労働者にとって仕事とプライベートの区分が難しくなる中、労働者がインターネットから離れる事のできる「つながらない権利」をどう保障するのか、また情報技術により新しく出現するビジネスモデルにどう対応するかが、労働法にとっての今後の課題となる。*金属・自動車・化学・銀行等の産業別に労働条件の水準を定めるため、労使の協議によって制定した産業レベルの規範。 パネルディスカッションパネルディスカッションは参加者からの事前の質問に、パネリストが答える形式で実施しました。主なトピックをご紹介いたします。・ 今後もこの労働法改革はこのまま続いていくか・ Uberに代表されるプラットフォームビジネスの雇用と労使関係について・ グローバル企業のフランス支社における解雇規制について・ 世代、業種、職種によって違う、働き方に対する意識の違いについて・ 日本人とフランス人の働き方の違いについてこれらのトピックについて短い時間ではありましたが、パネリストの方々から様々な意見をいただきました。ジャン-エマニュエル レイ氏(パリ第1大学教授)第一部の基調講演に加え、パネルディスカッションにパネリストとして登壇。パネルディスカッションと会場の様子モデレーターの細川 良氏(独立行政法人労働政策研究・ 研修機構 労使関係部門 研究員)パネリストの鈴木宏昌氏(早稲田大学名誉教授)パネリストのデヴィ ルドゥサール氏(TMI総合法律事務所 外国法事務弁護士・パリ弁護士会所属弁護士)

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