AOTSジャーナル11号(2017秋号)和文
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7No. 11 AUTUMN 2017時間がかかります。そのため、その時々にできることを教えるという方針で、各従業員の技量を見極めながら指導しています。工夫としては、従業員がわかりやすい形にして教えることを心がけています。例えば、繭の煮方であれば、温度や時間を正確に決め、文章によるマニュアルだけでなくイラストを描いて伝えています。また、若い女性が多い職場のため、まずは褒めた後で、気になることを注意するようにしています。人前で注意したり、ひいきしたりすることなく皆平等に接するようにしています。そのほか、ちょっとした挨拶などは、現地の言語であるカレン語を使うようにしており、従業員の皆さんとコミュニケーションを図るように努めています。2014年にゼロから工房を立ち上げ、最初の1年は試行錯誤の連続でした。当初は糸の仕様がなかなか決まらず二転三転しましたが、仕様が固まってからは糸作りの目標が明確になり、従業員のモチベーションも上がっています。お二人の指導のおかげで工房の運営が軌道に乗ってきたのですね。今後、従業員へ期待することは何でしょうか。現地の工房で生産する絹糸は日本で反物を作れるレベルにまで上がってきました。昨年より、座繰り生糸を使った着物用反物の販売を開始しました。ただ、現在の工房の規模では大量生産に見合う量は見込めないため、今後従業員を増やすことも検討しています。従業員の数が増えてくるとマネージャーの下にもう一段階中間管理職が必要になると思いますので、今後はそういった体制を作っていくことが必要でしょう。現在の従業員は先輩社員として指導者的な役割を担うことになりますので、より誇りを持って、技術面のみならず勤勉性やプロフェッショナル意識など、働き方についても後輩に指導していけるようになってもらいたいです。御社は絹小沢株式会社とともに、最初から今回のプロジェクトにかかわられ、また現地の工房にも何度も足を運ばれています。専門家派遣制度を利用して最も成果があがった点は何だと思われますか。若い女性たちが自分の故郷で働ける場所を見つけたこと、そして、周囲にこれまでなかった絹を作り、その絹から糸を作るという特殊な技術が必要な仕事に従事する経験を通して、自分たちは特別なことをしているという意識や、プライドを持って積極的に働いてくれるようになったことが何よりも大きな成果だと思っています。私たちの取り組みにはカイン州首相をはじめとした現地政府関係者、NLD関係者の方々に多大な協力をいただいており、カイン州に養蚕や生糸製造を根付かせようという意欲を同州の皆さまに持って頂いたことは大変嬉しく思っています。また、私たちがこのカイン州に対する技術支援を通じて得たものも多いです。日本ではできなかった、原料から自分たちで作り、その素材を使ってオリジナルの製品を産み出すこと、海外の何もないところで自分たちが一から作り上げる体験を通じて、強みを持つことができたことも今回の成果だと感じています。今後の抱負をお聞かせください。現在、ミャンマーには養蚕を行っている地域もありますが、日本が求める品質の繭を生産できていません。そのため、今後、カイン州で私たちが日本で行ってきた養蚕方法を伝え、高品質の繭から生糸を生産、ブランド化し、付加価値を付けて市場に供給できる体制を作ってもらうことが重要であると思っています。カイン州で実現できれば、もちろん他州でも展開できると思いますので、雇用の面、技術移転の面でもミャンマーの発展にお役に立つことができれば喜ばしい限りです。日本の養蚕技術、製糸技術は大変優れたものがありますので、日本の品質を現地に根付かせるために、日本人専門家による技術指導は大変貴重な機会になっています。カイン州の女性雇用促進につながっている平石宣江専門家(左から2人目)による座繰り技術の指導 株式会社大松

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