AOTSジャーナル11号(2017秋号)和文
8/16

JOURNAL6次に、専門家派遣制度の利用事例を紹介します。裏絹製品の開発、製造販売を行っている絹小沢株式会社は2014年から複数回に亘り、ミャンマー東部カイン(旧カレン)州の製糸工房に同社から専門家を派遣し、日本の伝統産業である絹糸の製糸技術の移転を目指しています。ミャンマーのカイン州は女性の雇用創出が大きな課題でしたが、今回の専門家派遣により、女性が活躍できる産業が新たに根付き始めました。また、縮小傾向にあった日本の絹織物産業にも新しい道が開けてきています。専門家派遣元企業である絹小沢株式会社、同社とともに現地の工房立ち上げ・運営に協力されている株式会社大松、工房で指導を行う専門家にこれまでの経緯や指導の効果、今後の抱負などを伺いました。絹小沢株式会社本  社:群馬県高崎市問屋町3-5-3設  立:1956年資 本 金:3,500万円従業員数:28名事業内容:裏絹製品の開発、製造販売株式会社大松本  社:東京都中央区月島4-8-10-101 設  立:2011年資 本 金:1,000万円従業員数:8名事業内容:呉服・和装小物の企画製造販売ミャンマーで新たに芽吹く日本の製糸技術AOTSの専門家派遣制度を利用された経緯を教えてください。2012年11月に、当社の取引企業である株式会社大松会長の藤井啓二氏とともに、在ミャンマー日本国大使館やミャンマーの国民民主連盟(NLD)の方々に同行頂き、ミャンマー東部にあるカイン州を視察しました。その際、同州に住む少数民族カレン族の女性たちが地元で職に就けるような現地雇用機会の創出について支援要請がありました。視察の結果、カレン族の女性たちが昔から行っている手織りの伝統を生かす形で協力したいと考えました。日本の事情をお話ししますと、今は機械による織物よりも手織物に付加価値があります。また、純国産の絹糸のシェアはわずか0.1%で、大部分が中国をはじめとした海外から輸入しており、素材から自分たちで作る機会がほとんどありません。そこで、まずはカイン州に桑を植え、育つ間に手作業で生糸を作る日本の技術をカレン族の女性たちに習得してもらったらどうかと考えました。現地雇用の創出にもなり、われわれとしても付加価値の高い生糸を輸入することができ、お互いメリットがあります。そのころ、外務省の担当者からAOTSの人材育成制度について紹介を受け相談したところ、製糸技術の指導において専門家派遣の制度がわれわれのニーズと合致することがわかり、さっそく活用することにしました。初回は2014年1月で、「上州座繰り」(編集部注:現在の群馬県で昔から行われてきた座って繭から糸をたぐりながら糸枠に巻き取る作業)という技術を持つ、群馬県で長年、養蚕、生糸作りの工房を運営している平石宣江氏に専門家として現地の生糸製造工房にて座繰り技術を指導してもらうことにしました。また、同専門家の夫である平石亘氏は、以前IT企業でマネジメントの仕事をしていたため、その経験を活かし、工房の管理者にマネジメントのノウハウを教えてもらうことにしました。亘氏の指導により、生産管理や従業員の人材管理などに関する知識を現地スタッフが習得したため、今では定期的な報告やレポートを通じて日本にいながらでも工房の状況がわかり助かっています。派遣回数は現在に至るまで二人あわせて計9回になります。お二人は専門家として直接指導をされていますが、指導の内容や工夫していることなどを教えてください。私たちが教えている座繰りや真綿の製造は手で行う作業で、日本人でも時間がかかる伝統工芸なので、習得には当然工房の前景 AOTS人材育成事業の活用事例 絹小沢株式会社 平石専門家夫妻

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る