HIDAジャーナル10号(和文)
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5No. 10 SPRING 2017ますが、元々は顧客が製品を購入してくれるから会社の収益が上がり給与支払いにつながります。日本では、「では収益増加のため全社員一致協力して頑張ろう」という流れになりますが、現地では、「ではこの会社を辞めてもっと給料のよい会社に移ろう」という発想につながります。従業員が過去受けてきた教育の影響は色濃く、その価値観を変えようとするのは容易ではありません。また、経済格差による学歴の差も非常に大きくなってきていると感じています。そのほか、現地での人事異動に関して次のようなことがありました。現地従業員の雇用契約では担当業務内容がしっかりと明記されており、セクショナリズムの意識が強いため担当業務内容の変更はまずありえません。しかし有能な人材は人事異動を行い、より能力を発揮してもらうのが得策と考え、今後は業務内容が全く変わってしまうこともあり得るという内容の契約を数年前従業員全員と取り交わしました。随分大胆なことをしたね、と現地では言われましたが、結果、退職者は一人も出ませんでした。そして実際に守衛室のリーダーを検査部門のリーダーに抜擢し異動させようと本人に異動を言い渡したところ、本人はクビになるものと思ったようで「テト(ベトナムの大型連休)明けまでは解雇しないで」と言われてしまいました。「今回はクビではないし人事異動だ」と説明したものの、まだ30代の若さなのに「もう歳だから異動はできない」とか、「皆に嫌われているから別の部門の仕事がつとまるわけがない」など色々と言われました。そこで「検査部門はむしろ嫌われている方が都合がよいから」と説得してどうにか納得してもらい、今では現場で大活躍してくれています。また、ベトナムでは叱るときは人前ではなく別室に呼んで個別に、とか、ほめるときは全員の前でなどとよくいわれますが、当社ではスタッフやリーダークラスに限っては叱るときもほめるときも皆の前でやっています。よくも悪くも自己防衛が非常に上手な文化なので、叱るときは人前の方が原因も明確になり本人も納得し理解してくれているように思います。私はオープンな社風・風土を作りたいと考えています。今後の人材育成の方向性について教えてください。現地従業員には日本と同等とはいかないまでも海外市場で十分通用する技術力を身につけてもらいたいと思っています。そのためにも人材育成の仕組みづくり、教育システムの一層の充実が必要です。今回HIDAの専門家派遣制度と受入研修制度を使ったおかげで当社の人材育成制度が始動できたと思っています。最初にお話ししたとおり、今回HIDAから紹介いただいた専門家を基礎技術の拡充に重点を置いて指導する目的で現地に派遣しました。ちょうど現地で日本の旋盤技術検定試験2級(ベトナム国内での実施は初)、および3級が実施されることになり、当社の現地従業員も受験してみないかとの誘いを受けました。独立行政法人国際協力機構(JICA)と中央職業能力開発協会(JAVADA)が共同で試験実施の取り組みを行っていましたが、試験準備にあたって実技を指導できる専門家がいないということで困っておられました。現地の工業大学の講師陣も検定試験にチャレンジしたいとの希望があり、HIDA専門家派遣制度には付加指導*2の活動があるので、付加指導として専門家が現地の工業大学に出向き検定試験受験準備のための技術指導を実施することにしました。11月に実施された2級試験はハードルが高く合格者は工業大学講師1名のみという残念な結果になりましたが、12月に実施予定(当時)の3級については当社の従業員からも合格者が出るよう現在最終的な仕上げと追い込み指導を行っています。受験の人数枠が決められているので、従業員の中から選抜して受験させる予定です*3。受験候補の従業員はお昼休みや就業時間後も使って積極的に準備を進めており、その努力には目を見張るものがあります。こうした検定試験受験も当社の技術力を底上げするためには非常に効果的だと考えています。何より従業員のやる気や自信を引き出す非常によい機会になっています。当社での現地人材育成はまだ始まったばかりの段階ですので、今後も継続的にHIDAの専門家派遣、受入研修の両方の制度を効果的に利用して、現地従業員の技術力向上を図りつつ、会社と従業員全員の成長を目指してベトナムの産業発展に寄与していきたいと思っています。現地と日本双方のよいところを活かすという方針のもと、対話を積み重ねて現地の人材育成をされている様子がわかりました。本日は有意義なお話を大変ありがとうございました。*1 HIDAでは各技術分野での専門知識と指導経験が豊富で、開発途上国に対する技術協力に理解と熱意をお持ちの技術者をHIDA専門家として登録しています。今回の事例のように派遣元企業内に専門家の候補者がいない場合は、HIDA登録専門家の中から案件に相応しい候補を紹介することが可能です。*2 指導先企業への日本側出資比率が50%を超える場合に、全指導日数の1/8から1/4程度の期間について、現地の関係先企業や大学等に指導に行くことが義務付けられています。*3 2016年12月末に結果発表があり、ベトナム国内全体での合格者2名のうち、PREC, VN CO., LTD.社員1名が3級試験の実技にめでたく合格されました。専門家(左)による付加指導の様子

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