HIDAジャーナル9号(和文)
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HIDA JOURNAL8 牟田先生はミャンマーの教育事情に関するさまざまなデータを分析し、今後の教育政策についてアドバイスをされていらっしゃいます。講演のテーマでもありましたミャンマーにおける教育制度の現状と課題について教えていただけますか。ミャンマーにおける教育制度の課題は幾つかありますが、まず学校制度の課題が挙げられます。ミャンマーはこれまで5・4・2制を採用しており、5歳で小学校に入学し16歳で高校を卒業します。しかし、これは通常18歳が高校卒業時の年齢である国際標準と比較すると早いため、国際標準に合わせて6歳で小学校に入学、12年間の基礎教育を経て18歳で高校卒業という教育制度にするべく改革が始まっています。もう一つは中退者が多いという課題です。データを分析すると一目瞭然ですが、小学校には入学するものの、毎年5-6%ずつ退学者が出て、高校最後の卒業試験まで到達するのは小学校入学時の生徒数の約3分の1、さらに高校卒業試験に合格し大学入学の資格を得ることができる人数は更にその3分の1にしかなりません。大まかにいって毎年100万人が小学校に入学するのですが、そのうち大学に入学できるのは10万人程度です。年々退学率は下がっており、全体的に学歴は高くなっているものの、いまだ中退者の人数は多いです。中退する一番の理由は学習内容についていけなくなるからです。学校教育は無償ですが、ミャンマーでは私塾の慣習が残っています。放課後に学校の先生が自宅に自分のクラスの生徒を呼び寄せ補習を行うわけです。補習に際しては親がいくらか謝金を包んで持たせるため、お金を払う余裕のない家庭の子供は私塾に通うことができず、結果として学校の内容にもついていけなくなり中退してしまうのです。この私塾の慣習は大学まで続いています。これまでミャンマーの主産業は農業でしたが、今後工業化が進展し農業以外の就業機会が増えることになると、退学した人の学力のフォローアップが必要になってきます。一方、退学した若年者に職業訓練を行うのは若年労働の推進となるため公的にはすすめることができません。週末にインフォーマルな形で中学卒業レベルまで身に着けさせ、その後は工場等で働けるレベルまで訓練していくということを考えているようです。 今のお話の最後で職業教育の話題が出てまいりましたが、近年の発展でミャンマーに進出する日本企業の数は年々増えており、2012年頃からはHIDAの制度を活用してミャンマーから研修生を受け入れる企業も多くなりました。進出企業としては即戦力となる人材を採用したいでしょうが、ミャンマーの職業教育事情について詳しく教えていただけますか。先にお話したとおり、これまでミャンマーは農業国で会社勤めをする人が少なかったため、職業教育はほとんどなされてきませんでした。きちんとした職業訓練を行う学校も幾つかありますが、一般的に職業学校の数は少なく、ほとんどの学生は普通高校に進んで大学進学につながる卒業試験を目指します。その代わりに職業学校に行くといった選択肢はほとんどありません。また、職業学校に資金が投じられていないので、設備や備品が十分でなく、数十年前に使われていたような機械で作業方法を学んだり、工具の形を見て名前を覚えるだけといったような座学が中心の内容となりがちで、実際に工場で使える技術が身につくわけではなく、人気がありません。職業学校以外では工業省が訓練所を持っています。従来、ミャンマーの工業は工業省が管轄する国営企業が担っており、国営企業に採用された者は工業省の訓練所で勉強していました。現在は国営企業が管理する訓練所を経て民間企業に就職する人も出てきていますが、これまでの実績からやはり訓練の内容と企業のニーズにミスマッチがあると考えられます。国がこの職業訓練の内容と企業のニーズの間のギャッ インタビュー ミャンマーの教育事情と今後の展望講演される牟田先生東京工業大学名誉教授 牟田博光先生去る2016年6月10日、ミャンマーのヤンゴンにてHIDA第4番目の海外拠点であるヤンゴン事務所開所式を行いました(10ページでご紹介)。開所式の後に行われた記念講演では、ミャンマーの教育省で政策アドバイザーとして教育制度改革に携わられている東京工業大学名誉教授牟田博光先生から「ミャンマーにおける人材育成の現状と課題」と題してお話をいただきました。ご講演内容を交えつつ、ミャンマーにおける教育事情や特徴、今後の展望についてお話をお聞きしました。

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