HIDAジャーナル5号(和文)
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HIDA JOURNAL24小さな国の同窓会 HIDA理事長 金子 和夫小さな国ネパールにはHIDA/AOTSの同窓会があります。このネパールを7月下旬に訪問しました。ネパールは小さな国であるというだけではなく、日本との貿易取引は少なく日本企業の投資も活発ではありません。従って、日本から見るとネパールは遠い国でしかありません。インフラ整備への支援は細々としており、途上国の最初の段階で多くみられる商社や土木建設会社もプレゼンスがみられません。JETROも残念なことに現地事務所がありません。そんな国にHIDAの理事長が訪問するのは、素晴らしい同窓会があるからです。今回は同窓会が「投資ガイドブック」を発刊した記念式典に参加するのが目的でした。ネパールへの投資にあたって必要となる手続きや条件、投資の魅力などを記述した日本語版ガイドブックを何と同窓会が自分たちの力で出版したのです。日本の出先機関などが日本企業向けの日本語版のガイドブックを作成することは多々あると思います。しかし、現地の人が自ら日本語版を出版した例はあまり聞いたことはありません。他の誰かがやる前に率先して日本語版投資ハンドブックを作り上げたことは大変な取り組みだったと思います。温厚で実直なリーダーのラメッシュ・M・シン会長が中心となり引っ張ってこられたネパール同窓会の大きな成果です。しかし、この式典の後に行われた同窓会総会において役員交代がありました。現会長が退任され円満なうちにビノード・マン・ラジバンダリさんが新会長に就任されたのです。このように新陳代謝があり新しいメンバーが参加しやすい雰囲気があるのは同窓会の活性化のためには大変理想的で模範的であると思いました。私の見方を少し述べます。ネパールは小さい国と言っても面積が小さいだけで、国としての気概は小さくはありません。南はインド、北は中国に挟まれ地政学的には大変重要な所であります。更に、自然が豊かであり、平地の高さから8千メートルまで広がる多様性を有しています。日本と似て山あり谷あり、寒さあり暑さありです。ですから、日本からの投資の魅力もたくさんあります。豊富な天然資源。「東洋のスイス」と言えるほどの観光資源。農作物・植物の中には日本と近いものも多くあります。豊富な食材を活かしたネパール料理はインド的なカレーだけではなく、植物を使用したものも多くあるのです。例えば今回の訪問時に食べた「キノコ」のスープなどは絶品でした。また、現地産のそば粉のそばを提供するそばやさんがあるのは世界広しといえど日本以外ではネパールだけではないでしょうか。こうした豊富な種類の農産物を利用して、食品加工、製薬業などの発展が考えられます。更にネパール人は繊維の分野でもセンスがあり、女性向けファッション製品が日本向けに輸出されているのを見ても今後有望であると期待されます。実は今回訪問した理由はもう一つあります。若い女性たちが日本式のパン屋さんを始めたという現場に行きたかったからです。AOTS50周年事業*の時表彰されたアミラさんが始めたラブ・グリーン・ネパールという農村支援活動があります。そこから5人の女性が自立するため、カトマンズに日本式のパン屋さんを出店しました。僻地農村の少数民族の女性が教育を受け、日本の技術指導を受け、立派なパン屋さんを立ち上げたのです。ここまで来るには困難が一杯だったと思うのですが、彼女たち5人が分担し製造・企画・販売・営業と日夜努力し成長している姿には驚きました。そこで試食したアンパンは飛び切り美味でした。今後の目標は?と聞くと、将来は女性経営者になりたいと返ってきた答えには心から感銘を受けました。自分自身の意欲と努力を実践している姿を見て、現場に来てよかったと思いました。こんなわけで小さい国ネパールで、日本との関係をベースに新たな成長が始まっているのはやはり同窓会があるからであり、今後ともこの絆を大事にしていこうと誓った訪問でした。* 2009年に当時のAOTS50周年を記念し、研修生の帰国後の活動について研修生自身が成功事例として発表する成功事例大会を開催。 ネパールのアミラさんは、日本で学んだ日本社会の平等意識、労働倫理、問題解決手法等に大きな影響を受け、帰国後農村部における地域発展と環境保護事業を立ち上げる。成功事例大会ではその取り組みを紹介し、社会貢献部門で大賞を受賞。日本のように山の多いネパールの風景ネパール同窓会が作り上げた日本語版のネパール投資ガイドブック日本式のパン屋さん「PRAKRITI」の前にて理事長コラム

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