HIDA JOURNAL 2014 SPRING No.4
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8 HIDA JOURNAL企業経営研修(EPCM)コース30周年記念講演を開催「日本企業の経営戦略の特徴とその未来」HIDAはインド・ニューデリーに3番目の海外事務所*を新設することになり、また企業経営研修(EPCM)コース開設30周年にも当たることから、2013年10月30日、本コースの主任講師である慶応義塾大学名誉教授の矢作恒雄先生に記念講演をしていただきました。テーマは「日本企業の経営戦略の特徴とその未来(Japanese Management Today and Tomorrow)」とし、当日は80名ほどの参加者が集まり、講演の中で活発な質疑応答がなされました。矢作先生にインドでの講演の様子やEPCMコースの30年間についてお聞きしました。[インタビュー日:2013年11月21日 聞き手:企画部長 田中宏幸]先ず、インド・ニューデリーでの記念講演についてお伺いいたします。矢作先生には、第一部「今日の日本:アベノミクス」、第二部「失われた20年」、そして第三部「日本とインドの起業家」の3部構成でお話いただきました。記念講演の主なポイントをご紹介いただけますか。ハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授が著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を1979年に出版した後、1980年代は日本的経営のブームが到来しました。しかし、当時はモノ不足を背景に世界市場が急成長していたため、それに乗っただけで大成功した企業も沢山ありました。EPCMが始まったのはそんな日本的経営ブームのさ中でしたので、私は第一回目の開講式で、「日本の経営者が皆世界一優秀なのではない。皆さんの国と同じ、優秀な経営者もいればそうでない経営者もいる。ただ、私が自信を持って言えるのは、企業の現場で働く人達の質は世界のトップクラスにある。150年前の東京の識字率は80%で、当時のロンドンが30%、パリが20%という数字が示す通り、歴史的に見ても一般の人達の教育レベルはずば抜けていた。EPCMでは、日本の経営の良いところ悪いところ両方を観察して欲しい」とお話して以来30年間、毎年同じことを言い続けて来ました。日本の一般の人達の質については、2011年3月の東日本大震災の翌日、世界中のメディアが、「家族全員を失い呆然としながらも、周りに苦しんでいる人がいれば助け、旅館は無料で宿を開放し食べ物も無償で提供している。略奪も無く、社会の秩序は全く乱れていない。こんな国民は他に類を見ない」などと日本人を称賛してくれました。HIDAのEPCMコースの参加者の中には、「日本の経営者はうらやましい。部下達が優れているので、放っておいても進んで良い仕事をする」と言いながら帰国する人が大勢います。震災の翌日の社説で一般の日本国民を絶賛した海外メデイアの中には「これでまた日本は良いリーダーがいない事への危機感がうすれてしまうだろう」と言及していましたが、優れたリーダー不足は我が国とって極めて深刻な問題である事も、今回皆様にお伝えしました。アベノミクスの「三本の矢」についても言及しました。第一の矢である「大胆な金融政策」と、第二の矢の「機動的な財政政策」のもとで行われている大規模な公共投資による政府自らの需要創出は評価出来ます。ただ公共投資が箱ものに偏重している点、そして安倍総理が財政健全化も同時に達成しようとしている点が気になるという私の意見は付け加えました。第三の矢の「民間投資を喚起する成長戦略」は、問題です。90年初頭から始まった「失われた20年」の原因を取り除く事の無いまま第一の矢がもたらした円安株高のお陰だけで数字上の業績改善では第三の矢の提供する成長への環境を企業がどこまで活用出来るか、私は非常に不安に感じているとお伝えしました。第三部では、1997年から英・米のビジネススクールの仲間達と開始し、今や40カ国以上が参加している世界の起業家育成についての調査結果に基づくお話をしました。日本の起業家輩出率は、調査開始時からずっと最下位ですが、これに比べ、例えばインドでは起業家率が20%とかなり高いです。日本が万年最下位というのは余り自慢にはなりませんが、実は起業家率が「低い」と言う事は、リスクを負ってまで起業するよりも有力な企業の中で自分の力を発揮することを選択する若者が多いと考えられ、逆に起業家率が「高い」ということは、若い人たちにとって就職するチャンスがあまりない社会のため、自分で起業するしかないともいえます。事実私の分析ではGDPと起業家率には一定の相関関係があり、GDPが低い国は起業家率が比較的高い傾向にあることがはっきりしました。インドの皆さんには、起業家率が高いからといって安心するのではなく、起業家率がすこし下がるぐらいに産業を発展させていくことを目指してほしいとお願いしました。そして、一企業のリーダーとしてだけではなく、国全体のことを考えながら発展させ慶応義塾大学名誉教授 矢作 恒雄先生
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