HIDAジャーナル 2013 SPRING

11/20

9HIDAジャーナル No. 2 ● SPRING 2013程」が決して簡単なわけではありません。「素地工程」では、最初の焼成で生地が約20%縮小するため、製品の特性に合わせた厳しい寸法管理を行います。また、ムラのない素地を作るためには、釉薬を均等に吹き付ける技術が必要です。一方、「絵付工程」では、熟練の職人が転写紙を寸分のズレなく貼り付けなければなりません。そして、絵師が金やプラチナの繊細な線を一筋一筋描いていくのです。高度な技術と厳密な管理が必要なのですね。そのような製品を海外で生産するにあたり、工夫されていることはありますか。当社の生産ラインは自動化された機械が並んだものではなく、手作業が多いのが特徴のため、現地従業員の一人一人に品質の大切さを理解してもらわなければなりません。そのためには、日本人と接する中で、鳴海グループの考え方や仕事の進め方を自然に学び取ってもらうのが効果的です。そこで、当社は「全員が日本語で話せるようにする」という方針を立て、日本語学習を奨励することにしました。社内テストの1級~3級合格者に対して手当を出した結果、今では社内でごく普通に日本語が飛び交う職場となりました。設立時に生産ラインのリーダーを育成するべく幹部候補生7人を日本で研修させた際は、製造技術だけでなく日本語の習得も重視しましたので、日本語をしっかり教えてもらえるAOTS(現HIDA)の受入研修制度を利用しました。ちなみに、この時の7人中5人が現在も第一線で活躍しています。印刷工程はいつ頃御社に移管したのでしょうか。2000年です。移管にあたっては、JODC(現HIDA)の専門家派遣制度を利用して日本から経験豊かな社員を呼びました。「印刷工程」で難しいのは、まず印刷用の原版を作成する作業です。この作業においては、デザイナーのスケッチから、いかに最終の絵柄に近い原版が作れるかが、絵柄の出来映えを大きく左右します。この作業は絵画や写真のセンスが必要で、デザイナーの意図を理解して進めなくてはなりませんが、まだ現地移管ができておらず、今後の課題です。次に、原版を転写紙に配置する作業では、転写紙のスペースにムダができないようにしなければなりません。配置の完了したCGデータを銀塩フィルムに焼き付ける作業では、細かいグラデーションまで再現する必要があります。転写紙用の台紙に絵柄を印刷してスクリーン印刷用の版を作る作業では、絵具や糊などの材料選択や印刷の厚み管理も重要なポイントとなります。また、高級品になればなるほど使用される色の数も多くなり、作業がより複雑で難しくなります。約1年間にわたる専門家の指導で、原版通りの色を出すための顔料の調合や試験焼成、極細線や極小点を再現するための光量や乳剤厚の調整、多色刷りにおいてズレを最小化するためのスクリーン版の配置調整などを行い、最終的に高級品の転写紙まで生産することが可能となりました。細かい点に至るまで品質にこだわっていらっしゃるのですね。おかげさまで当社は今や鳴海グループの中核工場へと成長し、製品は欧米・東南アジア・中近東・日本など世界各国に輸出され、有名ホテル・レストラン・航空会社などで愛用されています。また、インドネシアでは、ジャカルタやバリの高級ホテル向け食器のシェアをほぼ100%占めているほか、国際会議等の会合、航空会社のファーストクラスやビジネスクラスでも使用されるなど、高い評価をいただいています。印刷工程の移管後、順調に成長されてこられたのですね。はい。2003年頃には受注が予想以上に増え、オーバーロードによる設備のトラブルが発生したほどです。この時も、JODCの専門家派遣制度を利用して解決しました。ところが、2008年のリーマンショックは鳴海グループにも大きな影響を与え、更なるコスト削減が必要となりました。当社でも全工程を見直した結果、「印刷工程」の生産性に改善の余地があることが分かったのです。これまでは日本の工場に倣って改善を進めてきましたが、インドネシアと日本では総コストに占める人件費の割合が違いますし、文化や宗教に基づく慣習も異なります。したがって、日本の工場と同じやり方が必ずしも最良とは限らないのです。そこで、インドネシアの状況やスタッフに合わせて生産システムを現地化(最適化)することにしました。そこで、三度目の専門家派遣制度ご利用となったのですね。そうです。真の現地化を進めるには、専門技術だけでなく、現場や従業員のこともよく知る人間が指導するのが極めて有効です。今回の指導にあたるのは、20年以上にもわたり転写紙印刷の生産・開発技術に携わり、当社の工場統括責任者と社長を歴任した人物で、従業員からも大変信頼されています。今回の専門家派遣でさらなる効率化を実現し、品質の高い当社製品をより多くの方々にお届けできるよう努めていきたいと思います。御社が品質にこだわり、いかに努力されてきたかがよくわかりました。本日はありがとうございました。同社の製品印刷工程(原版を転写紙にムダなく配置)

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です